100分de名著 ナオミ・クラインの「ショックドクトリン」(その2)
2023年08月31日
2回目の放送分は、アジア通貨危機とIMF等の対応、中国とソ連における関連した動きについてです。
まず、アジアの通貨危機は1997年にタイのバーツの大暴落に端を発して、マレーシア、インドネシア、そして韓国にまでその影響が及びます。
タイをはじめ、これらの国ではドル建ての外国資金により、工業化を進め、製品の輸出を図ってきましたが、中国の台頭によって、その実体経済が相対的低下の気配を見せる時期でした。
そこに、ジョージソロスといったヘッジファンド機関投資家が、バーツ売りを仕掛けたため、結果連鎖的にこれらの国の通貨危機が起きます。
https://liberal-arts-guide.com/asian-financial-crisis/
これらの国はIMF等に融資を求めますが、それぞれ難しい条件を付けられます。
韓国では機関サービス事業の民営化、社会支出の削減、完全自由貿易の実現など。
韓国はやむを得ず、融資を受けるために受け入れたが、1997年12月3日を国民的屈辱の日として政府を批判したということです。
また、経営の行き詰った多くの企業を欧米の大企業に安く買収され、企業買収バザーとまで言われたという。
著者によると、ILOの調べから、この時期に失業したものは2400万人に及び、インドネシアではピーク時失業率は12%に達し、タイでは一月に6万人が失業した。韓国では毎月30万人もの労働者が解雇されたということです。
まさに経済力を使って、各国をアメリカの都合のよいやり方に変えていくということであることが分かります。
さて、次は本来相容れないと思われる共産国である中国とソ連においても新自由主義の影響が及んだということです。
中国の場合、鄧小平が経済の自由化を進める方向に従い、1978年12月の中国共産党第11期中央委員会にフリードマンを招聘することまでやり、非常に効率的に、新自由主義の導入が図られました。その結果、労働者の収奪や、党幹部への富の集中などが起こり、1989年の天安門事件に結び付きます。これらの不満は武装警察や言論統制などによって抑えられたとのこと。
片や、ソ連でですが、ゴルバチョフは15年くらいゆっくり時間をかけて、改革していく方針であったが、エリツィンが急進的なショック療法をやるべきとして、ゴルバチョフを失脚させ、1991年12月にはソ連邦が崩壊することになります。
しかし、このショックを利用した急速な改革は、想像よりも急激な破壊を招き、1992年には大インフレが起こり、国民の不満は頂点に達しました。議会は1993年にエリツィンの弾劾決議を行ったが、エリツィンは軍隊を動かして議会を砲撃し、沈静化させます。このショックもあいまって、7800万人もの貧困層を生みだし、まるで富裕層と貧困層が別の国どころか、別々の時代に生きているようにさへ見えると、著者は述べています。
石油企業等国有財産の10分の1の値段で売却されるなど、一部シカゴボーイズと手を結びオリガルヒのような新興財閥が誕生したと言われています。
ショック・ドクトリンを進める側からすると今の情報化社会はゆっくり考える閑を与えない最高の環境であるとも。
さて、以下は3回目の放送分であるが、紙面の都合上、このその2に含めて紹介します。
第3回目の放送は、2001年に起きた9.11同時多発テロのショックを利用して米国政府は急激な経済改革を推し進め、国家の役割の中核や、戦争までもビジネスとしてしまうような株式会社化する国家についての内容です。
それ以前1980年は民営化元年と言われており、レーガン政権は 規制緩和、民営化、社会保障の削減を進めてきました。水道、電気、高速道路、ごみ収集などの民営化による効率化が進められていきます。
しかし軍、警察、消防、疾病対策、公教育などの国家統治に根幹に関わる機能を民間企業に渡すというのは国民国家とは何かということに関わる問題です。
ところが初期の民営化がもたらした利益があまりにも大きかったことから味をしめた多くの企業は次のターゲットとしてこれら政府の中核機能に目を向け始めていたとのことです。
そこで民間企業の人材を政府の幹部に迎え、見えない回転ドアによって政府と民間の密接な交流が活発になされるようになったということです。そして2001年1月にはブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国務長官が揃い、新自由主義という金権政治がまず米国から定着し、教育、福祉、医療など国の中核業務まで民営化が進めれることになります。
まずはアメリカ自体からということですね。
貧困化による不満が高まる中、2001年9月11日に起きた同時多発テロは、世界中に大きなショックを与えました。
しかしそもそも飛行場でのセキュリティー管理の甘さ、世界貿易ビルの崩壊後の対応で通信インフラに問題が発生したりで、国民の批判が高まった。その一方で公務員の働きは高く評価されたということです。
それにもかかわらず、ブッシュ政権はテロの恐怖・ショックを利用して、新自由主義を進め、セキュリティー産業に3000万台もの監視カメラの投入など莫大な需要を生み出し、国防費や軍備費が増大し、その他自由の国であったはずのアメリカで、テロ予防の名目で、大手情報業界と結んで秘密裏に個人情報の把握や監視も始めるようになったとのこと。さらに軍人の人件費も派遣社員的に民間を絡ませて節減することも始めた由。
そして2003年3月、イラクは大量破壊兵器を有している、サダム・フセインは民主主義の敵だとして、イラク戦争を始めることになります。
結果的に大量破壊兵器は発見されなかったが、イラクの文化遺産の略奪も放置し、かえってイスラム原理主義の台頭と宗派対立の激化を招くことになったということです。
連合国暫定当局(CPA)の代表に任命されたポール・ブレマーは9.11後テロ対策のコンサルティング会社を立ち上げた人物であり、イラクの200余の国有企業の民営化、貿易自由化など新自由主義経済を推し進めます。イラクの復興や治安維持にはあまり力を入れず、国民は厳しい生活を強いられたということです。
ちなみに「新植民地主義」とというのは、イラクの場合のように、現地の人々の参加なしに、決められていくという意味でつかわれているそうです。
ただアメリカの国民も社会保障予算を減らされたり、経済的利益を受けるのは一部の国民であることは忘れてはならないとも。
このイラクでの「戦争と再建の民営化モデル」はその後ビジネスへと変化していく!
なんとおぞましいことか。ウクライナ戦争、台湾危機もの延長になるのか。
地球環境の持続可能性、人道主義とは、いかに程遠いものであることが分かります。
人間の強欲、権力欲、金欲・・・恐ろしいですね。幼いころから、これらをコントロールする生き方をしっかり教えることが大事だと思います。
(文責:浮田) その3に続きます。
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