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線状降水帯予測とスパコン

2022年06月03日

最近スパコン関連で2件のニュースが報道されました。
1.スパコン富岳がこれまで4部門のスパコン性能評価で世界一だったのが、今回2部門ではアメリカのスパコンに追い抜かれた。
2.集中豪雨の時期を迎え、スパコンによる線状降水帯の予測が常時行われる体制が整った。

 スパコン富岳の計算速度は毎秒約40京回の性能を誇っていますが、今回のアメリカのスパコンは約100京回となっています。スパコン京は2012年に供用開始され、その時点で名称の由来になったように計算速度は毎秒1京回でしたから、この10年で世界のスパコンリーディングマシーンの計算性能は100倍になった訳です。日本では兆⇒京⇒垓と1万倍毎に単位が変わりますが、外国では1000倍毎に単位が変わります。例えばギガ⇒テラ⇒ペタ⇒エクサとなります。1京回は10ペタだったので、スパコンの研究者や技術者は当然、次の目標は毎秒1エクサ回を目指していたと思います。日本の国家基幹技術の一つとして位置づけられるスパコンの性能アップは、システムの性能アップ・投資金額の兼ね合いと、世界一を目指すタイミングの関係で、富岳の400ペタ(40京回)に収束したのだと考えられます。もっとも、既に日本の次世代スパコンはエクサクラスの性能を目指して、計画が進められているものと思います。

 ところで2番目の線状降水帯の予測は、どのようなスパコン性能が必要とされるのでしょうか。私がスパコン京と多少ともかかわっていた2012年の7月に、九州北部に線状降水帯による豪雨被害がありました。スパコン京の使用は、全国の研究者が自分のやりたい計算を申請し、登録機関による審査の結果使用が可能となるシステムです。そのため、必ずしも災害予測にスパコン京を占有できる訳ではなく、線状降水帯による災害予測がスパコン京によってどれだけ可能となるのかを研究している状態でした。当時の理化学研究所で行われた予測結果と実際の観測結果との比較を下図に示します。

理化学研究所計算科学研究機構から提供された線状降水帯予測データ

線状降水帯の予測精度は、災害が予測される地域の空間を3次元の格子で構成し、各格子点それぞれに流体力学方程式、熱輸送(エネルギー輸送)方程式、物質移動方程式を適用して、時間を進めながらこれらの基礎式を同時に解いて行くのですが、2012年時点で上図の左端の観測データをほぼ予測可能となっていました。しかしながら、図から分かるように必ずしも確度が高いわけではありませんでした。災害現地の人たちにとっては線状降水帯の時間と位置を正確に予測した情報を得ないと、避難などの行動につなげる上で困るわけです。上記の諸式を解くためには初期条件(計算を始める時点での各地点での気象データ)と境界条件(東シナ海などの境界線上における気象データ、計算領域の海面からの水蒸気蒸発量など)が正確でないといけません。気象庁ではこの10年間、このような境界条件や初期条件を正確に把握する努力を続けてきたものと思われます。

一方、スパコン京は先に述べたように、日本の計算科学を引っ張って行く必要から、一つの分野に限定して使うことが出来ません。(スパコン富岳も同様な状況です)そのため、線状降水帯予測のような計算は気象庁におかれた専用スパコンで行う必要があります。現在、スパコン京の1/3程度の計算応力のスパコンが気象庁に設置されています。トップのスパコンよりも時間はかかりますが、専用機なのでそれなりに線条降水帯予測が可能になっていると思われます。このような条件が整ったので、この度の気象庁からのニュースが公開されたと考えます。それでも、線状降水帯の予測精度(当たる確率)は現在でも決して高いものではなく、私たちもその点に気を付けながら情報を受け取って行く必要があります。 (薄井洋基 記)

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