環境サロン「里山の保全と再生」第4回は9月26日、山口県指導林業士の田辺厚實さんに「私の育林状況~里山を活かし、美しき景観を」と題して話していただきました。
2013年09月29日
田辺さんは陸上自衛隊退官後しばらくして平成3~6年から本格的に林業と取り組まれ、現在75歳ですが、水田1.1haと17ha(人工林は13ha)もの森林を管理されています。
定年2年前にお父さんの代理で出られた会合で町長さんがいいの話をされた、「山をきちんとすれば地域の経済が伸びる、個人の所得も増える、しかも公益性もある」ということで、興味を持った。
宇部市の林野率は52%、人工林率は23%である。自分の人工林13haはほぼ全部手を入れている。スギ2ha、ヒノキ9ha、その他はケヤキ、カヤ、マキ、ヒバ、コナラ・クヌギ、ヤマザクラ、密源になるユリノキ、彫刻用のホウノキなどを植えている。雨の日は傘をさしていける道もつけている。
林業機械は、ミニユンボ2台、林内運搬車、チェンソー、ロボット枝打ち機、簡易製材機等を所有している。
経済性を追求しなくてはならないので、節、色、年齢に注意して、良質材の生産に心がけている。長所短所あるが、さし木造林に力を入れている。スギにも10種類くらい、ヒノキも6種類以上ある。岡山の関西育種場の檜試験林の場の提供もして、全国各地の57種類のさし木をしている。いかに早く成長するかという試験である。
1haあたりの植栽本数は、3000本~5000本である。4年目から枝払い。その後直径5,6cmまで1回の打ち高1m前後、最終打ち高4~7mまで枝打ちをする。
一方、間伐については、半径4m円内に植栽時30本を13,4年目には15本、25年目には8本といった具合。台風にも耐えるという経験からは胸高直径20cmだと5本、30cmだと3本の密度が適当である。
自分のところでは1回目の間伐は切り捨てだが、2回目以降は搬出している。幅1.5~3mくらいの作業路を300~700m/ha整備している。また、付加価値を高めるため、できるだけ簡易製材機で垂木などに製品化して出している。
今後の目標としては間伐を実施して、30~50年になれば択伐して、ヒノキならヒノキ、スギならスギの複層林にする構想である。また昨年から孫に興味を持たせるために、新しく入手した2.5haの山の一部に100種の森づくりやり始めている。エンジュ、ヤブツバキ、クヌギ、ケヤキなどなど植えている。休耕地を山に変えたり、ツバキ油も絞ったりしている。美しい景観をつくりで、里山観光地の一つになればと思っている。
その他、宇部市林業研究会として10数年前から森林体験学習にも協力している。吉部小、黒石小、万倉小、本山小、高泊小など。森林整備体験、シイタケ菌駒打ち体験、リースづくり、タケノコ掘り、ピザ焼きなど。
議論:
Q:何故、林業をされたのか。
A:トップがいいこと言っても、周りがついて行かなければことにならない、里山再生もトップの志に地域がついて行って、初めて事になると思い、本気でやるようになった。
全国走り回って、教えてもらった。おかげで色々知り合いもでき、情報も送ってもらえる。
しかし、現在木材価格が無茶苦茶やすくなっている。昔は立木で60万の木もあった。今はm3あたり10万、20万円の木はほとんどない。ちなみに、材積(m3)=末口径(cm)の自乗×高さ(m)/15000で計算する。うまくすると、木の内張はクロスより坪千円くらい高くなるかもしれないが、結構安く贅沢ができる。
35年生くらいのヒノキm3あたり18000円くらいだが、末口が20cmくらいあるので、伐倒など日当14000~15000円材積は0.64m3程度。製材費用が17000円/m3かかるので、なかなか利益が残らない。補助金があるとその分だけ自分に入るいう様な状況である。
自分でやると、側の部分は壁板にもなる。
民主党の政策で、30ha以上まとめられるところで、年間5haずつ手入れするところに、集中補助する事になっているので、自分たちのような小規模なところには補助金が回らない。苦しい状況だが、山を守るために一生懸命つづけている。
Q:国産材は何故やすくなったのか。
A:需要が少なくなっている ハウスメーカーと官僚の方針である。かつて、日本の木材自給率が低いことについてどう思うかとスイスで質問したが、「日本の消費者のお気持ちが分からない。商社が悪いのでは」と言われた。
シックハウス症候群は無垢の木材はあきらかにいい。木材と漆喰が健康にいい。なかなか広報が行き届かない。
自分の家を建てたとき、大工日当15000円~18000円×1坪12人役、左官、屋根、設備はのけて坪30万円くらいで上がった。時間は半年から1年かかる。壁は土壁である。竹の切り時はむずかしい。10月くらいがいい。それを春まで置いて使う。
Q:間伐材の搬出されたものはどうされるか
A:簡易製材機で垂木(6cm×4.5cm)にしている。午前午後10本ずつ1本千円くらいになる。一般の場合は2回目以降も搬出しないところが多い。末口15cmでは3mでも150円以下で搬出できない。
Q:東南アジアの合板などの影響もあるのか
A:合板というより集成材(大林木材、中国木材など)で、米マツやモミなど外材はm3あたり2万3千円を円高でも下回らない。それを集成材の芯に使われる。国産材は外に使われる。
Q:集成材の方が強いといわれるが
A:その通りで、国産材より集成材の方が強い。木目部分より接着部分の方が強い。ただ耐久性は実証されていない。
無垢の木材の場合は水分を吸って変形する場合もある。板だと水分17,8%が7,8%に下がる。
Q:里山があれているが、どこから手をつければいいのか
A:木材価格があがればいいが。公益性、景観などいうが、成人1人あたりの必要な酸素を30年生の木が2本必要という説明。
昔は周りに教えてもらえる人がいたが、今は、周りに教えてもらえうる人がいないので、より困難になっている。
Q:林業経営者は宇部市で何人くらいおられるか。A:10人くらいか。自分でやっているのは楠地区で2,3人くらいだが、実際施業しているのは自分1人になっている。
Q:17haの広い森林を何人で管理されているのか。森林組合の作業員は宇部で何人くらいおられるのか。
A:常時は自分ともう一人の2人、ときどき5名くらいでやる。
森林組合は4,5班、一班あたり2,3人というところか。
Q:環境教育は教育委員会を通じてやられているのか
A:県の教育委員会を通して。小学校1クラスとか1学年対象で、現場あるいは小学校へ出張。拡大の余地はない。アクトビレッジを利用することもある。農林事務所の人も手伝ってもらうこともある。
Q:市民植樹などの可能性は
A:市有林を利用するにしても、その準備に1反7,8万円かかる。素人ではできない作業である。ボランティアといってもなにか見返りがないとやらないと思う。
Q:さし木造林のやりかたについて
A:新芽を4,5cmとって挿すだけ。一旦1~3年さして置いて、現場に移す。
Q:さし木の利点は
A:優れた木の性質を残すという利点がある。短所もその木その木によってある。ナンゴウヒノキは枝が強いので、枝打ちをきちんとしなければいけない。自分で苗を育てるのが確か。千葉のサンブスギは赤、北山スギは黒、その木自体の性質にもよるので、さし木で増やす。
Q:何故、間伐が必要なのか
A:ヒノキなど間伐をしないと下草が生えず、地表が露出して雨で浸食される。竹もあまりよくない。根が浅く、また雨が意外に浸透しにくい。もう一つシダもよくない。松食い虫でマツが倒れ、シダが繁茂して、雨も浸透せず、雑木が生えにくい。
Q:落葉樹は家具などに用途がないのか。
A:あるが、値段が下がっている。また大径木である必要がある。カシノキがm3あたり3万円くらいだったが、スギなみになっている。
Q:イノシシなど有害鳥獣の駆除はどのような状況か。
A:要請はあるが、人手不足である。巻狩りも危険が伴うので誰でもというわけにはいかない。真剣勝負だから、あわててイヌを誤射する場合もある。
もし興味あればどんどんやってほしい。
Q:木造の家は非常に贅沢な感じがしていいと思うが、今日のお話では、結構安くできる可能性も有ると言うことが分かった。一般の人がもっと知る必要がある。
A:いまは、設計図があれば製材所で、切り込み料は坪7千円で部材木材のプレカットの設計、切り込みをしてくれる。大工さんは、切り込む必要はなく組み立てるだけでいい。
Q:どうしたら山が維持できるか
A:昔は薪とりで、ただで整備できていた。堆肥原料も採取されていた。そういう燃料革命、化学肥料に移行したことも大きい。山を持っていても、もてあます時代になってきている。
里山林業の維持は、たいへんな難題であるが、国産材の利用、バイオマス燃料の利用に向けた政策が重要であることを感じた。それにつけても、生物多様性や温暖化防止とも関連して、TPPによる安易な貿易自由化は考え直すべきではないかと思われました。
Youtubeは以下でご覧いただけます。
http://www.youtube.com/watch?v=YSR2abXpHD8
http://www.youtube.com/watch?v=gasGTIcS_Uc
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